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ある日の八雲一家(『東方不敗小町3』にて頒布)

 梅雨の合間の、ある晴れた日の夕暮れ。家事を一通り終えた藍は、橙を探して家中を歩き回っていた。
 久しぶりの晴れ間に、橙を連れて里へ下りようと考えていた藍だったが、いざ探してみると橙の姿が見当たらない。そして、とうとう紫の部屋へと行ってみる事にした。
「紫様。橙がこちらに……ん、巫女? 何時の間に不法侵入したんだ」
「客人に向かって随分じゃない。あんたそれでもメイドなの」
 紫の部屋に入ると、紫と霊夢が仲良くお茶を飲んでいた。藍は、霊夢の一言に、些か腹を立てた。
「何度言えば解る。私はメイドなどでは無い」
「あら、ごめんなさい。召使だったかしら」
「なんだと!」
「もう、二人とも。そのくらいにしておきなさい。藍、霊夢は私が呼んだのよ」
 今にもドンパチ始めそうな勢いの藍と霊夢であったが、主人に諫められた事により、藍は怒りの矛先を収める他無かった。
「……紫様が?」
「ええ。久しぶりの晴れ間だもの、一人で過ごしては勿体無いでしょう」
「そういう事よ。解った? 女狐」
「霊夢!」
「な、何よ……」
 紫は、喧嘩腰の霊夢を静かに睨んだ。普段はクールな性格であるが、威圧感を剥き出しにした彼女を前にして平気で居られる存在は、限られている。いくら霊夢と言えど、彼女の剥き出しにされた威圧の前ではたじろいでしまう。霊夢に「黙っていろ」、と視線で威圧した紫は、藍の方へと向き直った。
「藍、どうしたの。貴女らしくない」
 先程とは打って変わって、藍に語りかける声音は慈愛に満ちていた。この声を聞くと、藍は途端に素直な子に成ってしまう。
「紫様、その声色は卑怯ですよぅ」
 紫はスキマから藍の後ろに移動すると、藍を抱きかかえ、妖艶な唇を藍の耳へと寄せた。「んー? 違うでしょう、藍。私はどうしたの、と訊いているのよ?」
 そう言われた藍は、紫の腕の中で照れた様に、「うぅー」、と唸っている。
「らーん?」
「紫様が巫女・・・霊夢と一緒に、楽しそうにお茶なんか飲んでいるから」
「あら、私が霊夢とお茶を飲んではいけないの?」
「いえ、そういう事では無く……お茶なら私が、お相手を致しますのに」
「あらあら、妬いていたのね」
「ち、違います!」
「もう、照れちゃって。藍ってば可愛いんだからぁ!」
 紫はそう言うと、一層強く藍を抱き締めた。藍はと言えば、照れながらも甘えるように紫の胸へ顔を埋めている。まるで親子か仲の良い姉妹、見方によっては夫婦の睦語りの様である。
「もう、藍は甘えん坊さんね」
「んー、紫様にだけですよー」
「何時までイチャついているのよ。私、帰るわよ?」
 二人を見ていられなくなった霊夢が話しかけた。しかし、そんな言葉も今の二人には届かない。只々、二人の世界に没頭している。
「んー。はうぁ……紫様、そこはダメですぅ。あうー、そんなに優しく撫でられたらー」
「ふふ。相変わらず、耳の後ろを撫でられるの好きなのねー」
「ふぁうぅ」
 紫と藍の新たな一面を見られたと思っていた霊夢。しかし、その陰では違う感情も芽生えていた。
純粋な羨望――
 こう云った家族の在り方を、霊夢は羨ましく思った。
「紫。帰るわ、私」
 居た堪れなくなり、霊夢はそう言って立ち上がろうとした。
「あら、帰っちゃってもいいの?」
 そう言われて紫達の方を見た霊夢は、本来の目的を思い出していた。
「ふぅー。これじゃあ帰れないじゃない。謀ったわね?」
「さあ、どうかしら」
 霊夢が素直では無い事を、紫も霊夢自身も理解している。そして霊夢はこの時、紫が全て計算尽である事も理解していたた。
「本当、敵わないわね」
「ふふ。さ、いらっしゃい霊夢」
「はいはい」
 霊夢は紫の下へと歩みを進めた。
「暫くは起きないわ」
「本当に起きないんでしょうね?」
「貴女、私の能力を信用出来なくて? と言っても、今回は何もしてないけど」
「でも……」
「もう、焦れったい。藍の尻尾に触りたいと言ったのは貴女でしょう? ほら!」
 紫はスキマに腕を通すと、霊夢の背中を押した
「あ、ちょっと、きゃん!」
「どう霊夢、藍の尻尾の感触は」
「んー……」
「霊夢?」
「あったかぁい」
 そう言った霊夢は、藍の尻尾を抱き締めて離そうとしなかった。
「あらあら、そんなに気に入ったの」
「うん。ふぁー、このまま眠りたぁいぃ」
 藍の尻尾に顔を埋めている霊夢の、斯様に甘えた声音を聞いたのは、恐らく紫が初めてだろう。そんな霊夢を見て、紫は藍諸共、霊夢を抱き寄せた。
「寝ても良いけれど、私だけ仲間外れはイ・ヤ・よ」
 藍の尻尾とじゃれている霊夢などお構い無しに抱いた結果、藍を霊夢と紫で挟む形になっている。霊夢の顔は藍の尻尾から剥がされ、藍の頭の上にある。
「ちょっと、何すんのよ。尻尾から離れちゃったじゃない」
「別にいいじゃない。藍は耳も気持ちいいのよ?」
「そんな事どうでも――って、やだ。いい手触り」
 藍の耳の触り心地が気に入ったのか、霊夢は藍の耳に頬擦りしている。
「それじゃあ私は、こっちを愛でようかしら」
 紫は霊夢の髪を撫でながら言った。
「ちょっと、気安く触らないでよ」
「じゃあ、藍の耳を返して頂戴」
「嫌よ。これはもう私のモノよ」
「何を言っているの。藍は私の式なんだから、私のモノに決まっているでしょう」
「関係ないわ、今は私のモノよ」
「なら、霊夢の髪は私のモノ」
「嫌よ。私の髪は私のモノよ」
「埒も無いわね」
 まるで子供の喧嘩の様に見えることを、二人とも理解している。何時もこの調子で、二人からすれば馴染みの事なので、何を気にしたふうでも無い。
「それよりも、この季節に3人もくっついていたら暑いじゃない。紫、あんた離れなさいよ」
「そうねぇ、なら――」
 紫が腕を振った途端、周囲の気温と湿度が急に下がり、梅雨とは思えない程快適な環境になった。
「また境界を弄ったの?」
「だって暑いじゃない」
「そうだけど、季節ごと弄るなんて――」
「この部屋だけよ。ここから外へ出れば、梅雨の湿っぽい暑さが蔓延っているわ」
 霊夢の言葉を途中で遮り、紫はしれ、っと言い放った。
「そう。それならいいわ」
「貴女、相変わらず利己的なのね」
「あんただって人のこと言えないじゃない。そんなことより、眠いから寝るわ」
「はいはい、御休みなさいな♪」
「私が寝ている間に、髪に触るんじゃないわよ」
「さあ、それはどうかしら」
 紫の返答など無視して、霊夢は瞼を閉じた。
「本当、素直じゃないんだから」
 藍の髪と耳に顔を埋めている霊夢を抱き寄せた紫の瞳は、慈しみと親愛の情を湛えている。
「私も……もう一眠り」


************************


 月が天の中心に来た頃、藍は目を覚ました。しかし、目覚めた藍を待ち受けていたのは――
「私は何故紫様と霊夢の腕の中なのだろうか」
 藍は、紫と霊夢に腕と足を見事に固められ、身動きが取れない。唯一動かせるのは尻尾と頭。
「はあ……こんな処を橙に見られたら、何て言われるだろうか」
 誰にともなく呟いた藍だが、自らの呟きに、何か疑問を抱いた。
「――ッ」
 しばし悩んだ末に橙の存在を思い出した藍は、息を呑んだ。その顔は、すっかり蒼白くなっている。
「あ……ゆ、紫様! 起きてください紫様!」
 藍は自分に抱き着きながら眠っている二人に構う事無く、少々乱暴に身体を揺すり、自分の呪縛を解こうとしている。
「んー? ふぁあ……ふぁら。目を覚ましたのね、藍。ああ、今夜も月が綺麗ねぇ」
「そ、それどころではなくて! 橙が、橙が!」
「橙がどうしたのぉ」
 紫は起き抜けで、未だ少し寝惚けている様だったが、藍は構うことなく紫に状況を説明しようする。
「橙が居ないんです、夕方から!」
 紫は藍をから手を離すと、「んー」、と伸びをした。紫に開放された事で片腕の自由が戻り、藍は霊夢を自分から引き剥がした。
「そんなに慌てなくても、お腹が空いたら帰ってくるでしょー」
「何時もの晩御飯の時間なんて、とっくに過ぎているんですってば!」
「んもう、取り敢えず落ち着きなさい……家の中は探したの?」
「はい、夕方に。この部屋が最後だったんです」
「この部屋に来ては居なかったわねー。外に遊びに行ったのではなくて」
「いやでも、外に行く時は何時も声をかけて――」
「いいから、さっさと探しに行きなさいよ」
 藍の言葉を遮り、霊夢が一言言い放った。
「まったく、五月蝿くて寝ていられやしないじゃない。さっさとあの化け猫を見つけて、もう一眠りよ」
「お前に言われなくとも、今行こうとしてたんだ!」
「何言ってるんだか。愚図愚図してたくせに」
「五月蝿い! お前だって寝言で――」
「五月蝿いのは貴女達の方でしょう」
 またもや、藍の言葉は遮られた。しかし、遮ったのは霊夢でも無ければ紫でも無い。
「あら、今度は本物のメイドじゃない」
「本物って、何の話なのかしら」
 何時の間にか部屋の入り口に立っていた、紅魔館のメイド――咲夜だった。
「そんな事より、向こうの部屋で寝ている子がいるんだから、もうちょっと静かにしなさい」
「お前も不法侵入か!」
「うん? あー……確かに不法侵入では、あるわね」
「ぬけぬけと……」
 藍が怒りを爆発させようかと云う時、紫が藍の頭を撫ぜ、藍を宥めた。
「こら藍。止めなさいったら、もう……で、メイドさん。誰が寝ているのかしら」
「貴女の処の子猫よ」
「橙? 橙は無事なのかっ?」
 藍は咲夜の襟首を掴みあげそうな勢いで、彼女へと詰め寄った。
「無事って何よ、無事って。別に私達は何もしていないし、寧ろ迷惑したのはこっちの方なのよ? 何時の間にか館の中に侵入しているんだもの。遊ぶのは構わないけど、確り監督しなさい」
「そうか、無事だったか」
「それは悪い事をしたわね」
 安堵する藍の横で、紫は悪怯れる様子もなく謝罪の言葉を口にした。
「ん? 橙が館で遊んでいたと言ったか? それは、橙が言ったのか?」
「ふぅ、そうよ。『かくれんぼ』、だなんて良い迷惑。するなら他所の家に入らないように注意くらいしなさい」
 咲夜は溜め息を吐いて、藍の質問に答えた。
「あ」
 その刹那、霊夢の何かに思い至ったような呟きが漏れた。その呟きに、3人が注目する。
「かくれんぼ、私だわ」
「「「はい?」」」
 その場にいた全員が口を揃えて同じ事を言った。
「此処に来た時に家に入るのを邪魔されたから、「かくれんぼしてあげる」、って言ったのよ」
「お前の仕業か!」
「何よ、元はと言えばあんたが相手をしないからでしょ。纏わり着かれて大変だったんだから」
「う……し、仕方ないだろう。溜まった洗濯物を全て洗っていたんだ」
 バツが悪そうにそう言った藍の頭をゆっくりと撫で付けながら、紫は霊夢に訊ねた。
「それで。中に入れないから『かくれんぼ』、と言って橙を追い払った、と云う訳ね。」
「だから、そうだったって言ってるでしょう」
「そう、事情は解ったわ。藍、橙は貴女の式なのだから確りと面倒を見なさい」
「はい……」
 紫に叱られ、しゅんとしている藍に向かって、紫は更に一言付け加えた。
「もう……ほら。ここは良いから、橙の様子を見ていらっしゃい。そしたら、晩御飯ね」
 藍は頷くと、直ぐに部屋から出て行った。
「ねぇメイドさん、貴女は食べていく? お詫びにご馳走するわよ」
「未だ仕事が残っているのよ、今宵は遠慮させて貰うわ」
「そう、なら仕方ないわね。メイドさん、わざわざ橙を送ってくれて有難う」
 今度は心からの言葉だった。それが解らない咲夜ではない。
「次から気をつけてくれれば、それでいいわ。叱られるのはどうせ、門番だし」
 そう言うと、咲夜は部屋を出て行った。そして咲夜の足音はふ、と聞こえなくなり、紫は霊夢の方へと向き直った。
「さて、霊夢――って、あら?」
 先刻までそこに居た筈の霊夢は、何時の間にか居なくなっていた。
「逃げたわね」
 紫はそう呟くと、霊夢には興味を無くしたのか、部屋を出て台所へと向かった。途中、居間を通ると橙が起きていた。
「あら、橙。起きていたのね」
「あ、紫さまー」
 紫の姿を目に留めると、橙は寝惚けた様な声のまま、紫に抱きついた。
「ふふ、貴女も藍も甘えん坊さんね。ねぇ橙。今日の様に、人様の家に勝手に上りこんではダメよ?  次からはきちんと、門番を蹴散らしてから入りなさい、いいわね」
「はぁーい」
「はい、よく出来ました。それじゃあ私は藍に用があるから、ご飯が出来るまで大人しく待ってなさいね」
 紫は橙の頭を撫ぜると、もの足りなさそうな橙を残して、藍の居る台所へと向かった。
「あ、紫様。食事は何人分必要ですか?」
 紫が台所へ入ると同時に藍に声を掛けられた。
「3人で良いわ。霊夢も気が付いたら居なくなっていたし」
「……そうですか」
「どうしたの? 何時もなら、霊夢がいると機嫌が悪いのに」
「いえ、今日は私に非がありましたから。それに……」
「それに?」
「あ、いえ、何でもありません」
「んー? らーん。貴女、何を隠しているのかしらー?」
「別に何も隠してはいないんですけど、只……」
 そう言った藍の瞳は、悲しみと優しさを湛えて虚空を見つめていた。何があったのかは解らないが、紫にも得心が行く事だったのだろう。そっと藍の頭を撫ぜた。
「紫様?」
「次は霊夢も一緒に、ね?」
「あ……はい!」
 紫に撫ぜられている事が嬉しいのか、紫と同じ想いである事が嬉しいのか。藍は照れ臭そうに微笑んだ。
「あー、藍さまずるーい! 紫さま、わたしもー!」
「ふふ、はいはい」
「ふにゃぁん」
 満足そうに顔を蕩けさせている橙を見て、紫と藍は顔を見合わせて笑った。
「さ、すっかり遅くなりましたけど、ご飯にしましょう」
「あ、藍さま。わたしもお手伝いしまーす!」
「あら、橙は偉いのね」
 褒められた事が嬉しいのか、橙は瞳を輝かせながら藍の指示を待っていた。
「それじゃあ橙、御櫃を運んでくれるかい」
「はーい!」
「さ、紫様も――って、早!」
「藍、早くー早くー♪」
「ぷっ……はいはい、只今。橙、大丈夫? 重くない?」
「だい、じょぶ、です」
 全く大丈夫そうには見えなかったが、藍も紫も手を貸す事はしなかった。これが今の八雲家の、家族としての貌。
「んしょ……っと。藍さま、運びました!」
「よしよし。それじゃあ座って、い『ただきます』、だ」
「はーい!」
 既に食器を並べ終えて座っていた藍は、御櫃を運んだ橙に着席を促した。
「よし、それじゃあ。戴きます」
「いただきまーす!」
「あらあら、橙は元気ねー。戴きます」
 霊夢達の影響なのか、以前とは、そして昨日とは、少し貌の変わった家族。そこには、幻想郷の人里では有り触れている様な、温もりを感じる事が出来た。


 ―終幕―
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テーマ : 同人小説 - ジャンル : 小説・文学

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