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咲夜さんと、レミィが壊した懐中時計(夏コミおまけコピー本)

 バキッ――
 何か硬い物が砕ける音。その次に、メキッ、とか、バリッ、とか、兎に角そういった、何かの砕ける音が部屋に響き渡った。
 雨の降り頻る音と少しの硝煙の中、その何かが砕ける音だけは、誰の耳にも届いた。
 誰もがその音を耳にして動きを止める中、最初に動いたのは吸血鬼の少女――レミリアだった。
 視線を自分の足元に向けながら、そっと右足を持ち上げる。自身で起こした小規模な爆発による硝煙のせいで彼女自身、未だに自分が何を踏んだのか解っていない。
 持ち上げた足を、そっと横に下ろす。と、陶器の破片を踏み砕いた様な音が聞こえたが、今度は誰もその音を気にも止めなかった。
 壁に開いた穴から風が吹く。部屋に舞っていた硝煙や塵芥を、一陣の風が攫っていく。
 足元が明瞭になる。
 その場にいる全員が、レミリアの足元に注目する。彼女の足元には、砕けた硝子や小さな歯車、ネジ、バネ、そして、それらが収まっていた金属製の入れ物。
 レミリアが踏んでしまったのは、懐中時計。この時計、紅魔館で唯一の人間――咲夜のものだった。
 普段から懐に忍ばせ、時折取り出しては大事そうに握り締めている――そんな咲夜の姿を、この場にいる全員が――レミリアも、パチュリーも、普段は自室に軟禁されているフランドールでさえもが知っていた。知っていたからこそ、誰も一言も発する事が出来ず、只々懐中時計だったモノを眺めるだけだった。
 『原因は私では無い』、普段のレミリアならば口にする。
 『レミリア、貴女が壊したのよ』普段のパチュリーなら叱咤する。
 『お姉さまが壊した』、普段のフランドールならばそう冷やかす。
 しかし、誰も何も言わなかった。
 その内に、咲夜が静かに歩みを進める。俯いた彼女の表情は見えない。
 一歩、また一歩と、レミリアの元へ――懐中時計だったモノの元へと、静かに近付いていく。
 咲夜がレミリアの前で立ち止まった。レミリアは咲夜の表情を見て息を呑んだ。
 パチュリーも、フランドールも、咲夜の表情は伺えない。けれどレミリアの様子から、何かを悟り、身を強張らせる。
 咲夜は静かにしゃがみ込み、ゆっくりと、砕けた破片に手を伸ばす。
 『何か、何か言わなければ』、けれど何も言葉に出来ないレミリアの手が、咲夜に伸びる。けれど届かない。かける言葉も見つからぬまま、どうして咲夜に触れようか。
 すると咲夜が顔を上げた。
レミリアは息を呑み、全身を強張らせながら審判の時を待つ。咲夜が、レミリアに下した裁定は――笑顔。
 何故怒らないのか、何故笑っていられるのか。レミリアは目を白黒させながら、咲夜の顔をじっと見つめる。
 咲夜はまた、レミリアに笑いかける。
 『ガラスの破片でお怪我をします』、咲夜の笑顔が告げていた。
 咲夜の笑顔を解した瞬間、レミリアの思考は停止した。
 レミリアの頭の中では、一つの言葉が浮かんでは、泡沫の様に弾けて消える。何度も何度も、弾けて消える。
 咲夜が再び下を向く。破片を片付けようと下を向く。
 『咲夜が再び俯く前に、何としても言わなければ』、レミリアの咽喉が鳴る。
 咲夜は主人の発した声に、下げた視線を再び上げる。
 レミリアの――小さな悪魔の口が動く。
 声は上手く出ていない。けれど咲夜には理解できた。咲夜は、主人に再び笑顔を向ける。
 咲夜に意思が、通じた事を喜んだのか。将又、咲夜の優しさに喜んだのか。
 小さな悪魔は声を上げて泣き始めた。
 『ごめんなさい』、と、それだけを口にしながら。
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テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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